ロックなヒト

最先端技術を追求するパワーの源は、人を大切にする情熱

2022.03.24

「その頃私はサラリーマンだったんですけど、親父とお袋の生活の面倒を見て、自分たちの生活を支えるには、これから10年20年続けられるビジネスモデルを作っていかないとって思ったんです。」

そうお話してくれたのは、株式会社たむら代表取締役の田村輝幸さん。

田村さんはまた再生可能なエネルギー事業、また人工光型植物工場で「愛され野菜」を栽培。洗わなくても食べられる、新鮮長持ち野菜を提供しています。

そんな田村さんに、会社員から会社を設立することになったきっかけ、会社を経営する上で大切にしていることなどをインタビューしてきました。

会社を立ち上げた経緯

※田:田村さん、イ:インタビュアー

イ「まずは会社が立ち上がるまでの経緯を教えてください」

田「『東日本大震災の頃、生活の支えであったコンニャクの不作となりお袋の膝が悪くなって、いよいよ面倒を見てもらわなければならない』と親父に言われたのがきっかけです。その頃私はサラリーマンだったのですが、親父とお袋の生活の面倒を見て、自分たちの生活を支えるには、これから10年20年続けられるビジネスモデルを作っていかないと、って思ったんです。

家には、畑も田んぼも、山もあるけど、今までのようにやっていたのでは到底成り立たない。

そこで、一番先に手掛けたのは、再生可能エネルギーでした。ソーラーシアリングという、部分的に農地転用するやり方を考えて、群馬県から認可をとりました。今はそこで山菜を作っています。山菜とソーラーシアリングは非常に相性がいいので、うちは山菜に特化しているんです。農電連携っていうんですけどね。農業と発電業を連携したやり方です。」

会社員から経営者へ!

イ「もともと会社員であられたのに、なぜそういう発想ができたのでしょうか?」

田「サラリーマンをしてきたからこそ、そういう発想になったんです。定年になって、そこでピタって終わった時、確かに退職金はありますが、人生100年時代ですから、とても足りないんですよ。年金だってこれからどうなるかわからない。生きていくためには、人と違うことをしないと。そう思ったんです。」

イ「もともとそういうことを考えられていたんですか?何かきっかけはあったのでしょうか?」

田「60歳過ぎてから、さぁどうしようって思っても、体力的に厳しい。でも、40代だったらまだ体力もある、行動力もある、色んなことをやってもまだ先があるし、お金を借りるにしても銀行の信頼もある。そう考えたら、やっぱり、今のこのチャンスを逃したらダメだって、その時思ったんですよね。

これからの時代、エネルギーを制したものが世の中を制すると思ったので、最初に再生エネルギーをやり始めました。太陽光とその下で山菜を作って。ハウス栽培、山を使ったバイオマスをやって、伐採の会社も創りました。自社で伐採をして、バイオマスのチップを作って、その温水をハウスに回す。それでも通常のハウス栽培とは差別化できないんですよ。」

イ「そこまでしても、差別化は難しいんですね?」

田「はい、普通のハウスを作って重油を炊いているとこと変わらないですよね。そこで、完全閉鎖型の植物工場が出てきたんです。農薬も全く使わず、洗わずに食べられ、通年通して同じ価格、同じ品質でできます。それも再生エネルギーで自家発電にすれば、その電気代は全部まかなえるわけです。今はその準備をしているところですね。」

イ「人工光型っていうのは、素人からすると凄い最先端のイメージがあるんですけど、そういう新しいものに着手するって、抵抗はなかったんですか?」

田「それは確かにありました。でも、じゃあ、いつになったら踏み切れるの?ということなんですよ。

実際価格の問題もあるので、お客様もなかなか手が伸びない部分もあるんですが、あるホテルは、即決だったんです。そちらでは、食事で提供している野菜は、全て1度、塩素水で洗い、それを今度は水道水で洗い流し、その後全部拭き取って出すということを、毎日やっています。だけどうちのS級の植物工場のものであれば、その作業は全くいらなくなるので、大きな合理化です。人員削減にもなるし、原価低減にもなります。

さらに、植物工場の野菜は、雑菌が少ないんです。全て熱湯消毒しているハサミで切った切り口は、菌が少ない状態になるので、傷むのを遅くできるし、炭酸ガス濃度を上げた所で育てて、その中で刈り取って、ラッピングまでするので、未開封のまま冷蔵庫にいれれば、葉物野菜だったら1週間から10日くらいまで十分、シャキシャキ感が落ちない。

その様に他との差別化ができたのが、大きなポイントですね。」

イ「もともと太陽光ベースでちゃんと利益を取られていますが、無駄がないなって思います。そういうのは、やりながら気づいていくものなんですか?」

田「無駄がないというか、いい所をうまく組み合わせていく、ということですかね。太陽光パネルの下でやる農業に山菜を選んでいるのもその一つです。まず陰性植物で日陰でも育つということ、そしてパネルの下なら霜が当たらず、その影響を受けにくくなること、さらに乾きにくくて、少し暖かい。だから、少し早めに育つんです。特に山菜が目を出す春先の遅霜の影響を受けにくいことも大きな効果です。

あとは、捨てるものをなくす、ということもありますね。例えば、バイオマスから出る排出物をできるだけ使うようにしています。チップにした後に出る細かい5mm以下の屑は近くの畜産農家さんに無償提供しているんです。」

イ「畜産農家さんもありがたいですよね。」

田「色んな方向へ繋がっていきますね。他にもうちは外部からの見学も断らないんですよ。自治体はもちろんそうですし、学校や色んなとことそういう話があって、同業とも異業種とも、非常に関係がうまく構築できてきて、ビジネスがうまく広がっています。」

仕事で大切にしていること(人を育てる)

イ「人材育成にもすごく力を入れられているって聞いたのですが、田村さんの信念なんでしょうか?」

田「私が面接で1番先に聞くのは、当社とは、関係なくやりたいことは何ですか?です。

何故か?というと、人が一番能力を発揮できるのは、好きなことをやることだからです。好きなことをやって、それがビジネスに繋がって、上手く回れば、それが一番その人のポテンシャル、才能を活かすってことですよね。ビジネスとして上手くいくんだったら何でもやっていいよっていうことです。」

イ「経営者の立場からすると、そこで従業員に自立してしまったら困るとか、そういう恐怖がある方も、中にはいらっしゃると思うんですけど、そういうことはないんですか?」

田「自立するってそんな簡単にはいかないですよ。だから、やるならやってみたらと(笑)」

イ「なるほど(笑)実際働かれている方はどうですか。すごく楽しそうな雰囲気は感じるんですけど。」

田「ストレスを与えないっていうんですかね。例えば明日雨だったら、山へ行って伐採なんてことはしない。天候っていうのは自分たちではコントロールできないので、予測して、自分たちに合わせた形で仕事をしてください、と言っています。だから今日雨で、もうやることなかったら、15時で止めてもかまわないと。当然、お客様や次工程に迷惑や影響を与えてはいけませんが。」

イ「なるほど〜!面白いですね。」

田「好きなことをやらせればいいんです。だけど儲からないことはやったらダメですよ。」

イ「ほんとに好きなことなら、そこに集中するっていうことですね。従業員の育成計画も社長が立てられるんですか?」

田「私の中ではこういう風に育てて、こういう風にしようっていうのはあるんです。だけど、まず自分で考えさせる。どうしましょう?じゃなくて、自分でどうしたいか。失敗してもいいからやってみな!と言っています。

10月から入ってきた19歳の男性にも、将来どういう風にしたい?って聞いたら、将来は社長になりたいっていわれました。それはいいことだけど、1つの会社でずっと働くなんて、これからはないよ。1つの会社プラス、個人事業主くらいの形でいかないと。ただ、そのためには、直近の目標を立てて、例えば、何歳で結婚して、その時の年収はどのくらい必要なのか?採算ベースで出せばいいんだよ、と話しました。」

イ「そこまで、アドバイスされるんですね。」

田「良い悪いは別ですよ。失敗するかもしれないしね。だけど、大事なのは、まず、思ったらやってみることで、失敗したらやり直せばいいんです。それの連続なんですよ。だから、100点を求めずに、まずは30点でも50点でもやるんです。実際、ほとんどの人が100点を目指して1歩も踏み出せないっていうのが多いですよね。」

仕事で苦労したこと、嬉しかったこと

イ「身近にそうやって後押ししてくれる方はなかなかいないので、従業員の方からすると社長の存在っていうのは、すごく心強いですよね。そんな中で一番苦労されたこと、今でも思い出す経験ってありますか?」

田「前の会社の話ですが、ある会社とエアコンに使う電磁弁の取引を始めた時の事です。当時使われていた材料では、品質的な問題があったので、新しいものを技術開発するとことになったんですが、機械もない、技術もない、材料もない。なのに、何としてもそれをやりたいという責任者の強い思いを受け、私が上司と二人でやることになったんです。

でもなかなか結果が出なくて。家に帰らないで、材料の袋を敷いて機械の前で寝るような日が何日もありました。どうなっちゃうんだろうと悩みましたね。そんな時に上司が、「命までは取られることはないよ」と声をかけてくれて、気がラクになりましたね。そういう苦労があったから、その会社や商品には思い入れがあります。」

イ「そういうご経験もされての「今」なんですね。では、逆にお仕事されてきた中で一番嬉しかったこと、楽しかったことは何でしょうか?」

田「1つはやっぱりお客さんから「ありがとう」と感謝されたこと。」

イ「やっぱりそこなんですね。」

田「強い思いに触れたからこそ思えた、『失敗してもいい。いいと思ったことはまずはやってみよう!』って、よく言っていますね。自分で考えて動けるようになってほしいんですよ。」

東吾妻について

イ「最後に東吾妻を社長の目から見た時に、おすすめポイントをぜひ聞かせてください。おすすめスポットがあれば是非!」

田「目立ったところがない、というのがいい所ですかね。まだまだ色んなことができると思います。」

イ「可能性があるっていうところですね?」

田「そうです。実は私、バイオマスの関係で、神流町の町長と話をする機会があって、先日神流町に行ったんです。山と山の間で、土地が非常に狭かったんですよ。そういう場所だからこそ、色々考えてやられていて、情熱というか、人間の力を感じましたね。

それに比べると、東吾妻は、ある程度電車も通っているし、平らなところが多いし、人口も多い。恵まれているんです。だから、もっと情熱を持って、好きなことを、もっと大胆にやればいいのにと思いますね。可能性は相当ありますよ。」

イ「なるほど。情熱をもって変えていくってことですね。」

田「そこにあるものをちゃんと使ったらいいんじゃないかと思います。東吾妻は、地形を変えなきゃできないといったハードルもない。恵まれすぎているのかな。やっぱりずっと同じ場所ではなく、他の所に行ってみないと恵まれていることに気づけないんですよ。」

※東吾妻の大自然の中にある作業場の風景

今後の展望

イ「今後の展望などはありますか?」

田「今は体験ツアーを企画していて、色んな人に来て欲しいですね。あとは、もう少し会社の方もビジネスの範囲を見直した方がいいと、アドバイスをいただいていたので、(株)たむらではバイオマスを主にやり、植物工場は、㈱シャングリラという会社でやっていこうと思っています。

(株)シャングリラっていうのは、夢の国とか希望鄉って意味ですが、エディブルフラワーを育てるので、お花の中で癒されて仕事をしたいとか、まさにそういうコンセプトで作っていこうと思っています。また、希望の国なので定年もないしね(笑)。女性だけの職場にしています。そんなところです。」

イ「夢とか情熱がキーワードですね。」

田「今後、3本の矢として、①新電力会社を立上げエネルギーの供給をスタートしたい。
②バイオマスの熱を利用したハウス栽培で南国フルーツを育て提供したい。
③陸上養殖でバナメイエビの養殖を行い活エビを提供したい。
地元に安定した電力供給で、南国フルーツや活エビがいつでも食べられる町。ここであれば実現できると思います。

どれもバイオマスが核となり成り立つビジネスです。既に1モデル毎には成り立っていますが、一か所でとなると、世の中にはまだ無いビジネスモデルです。

現在の東吾妻町在上地区であれば、実現は可能です。唯一無二な「東吾妻在上モデル」が私のやりたいことです。自分の力を最大限引き出せるか?試してみたいです。どれだけ頑張れるか?可能性にチャレンジします。」

編集後記

インタビューを通じて、田村さんから「信念を持って行動し続けること」、「人を大切にしたい」という思いを強く感じました。

田村さんご自身が、定年後の人生に不安を感じ、実際に行動してこられて、実感されているからこそ、説得力があるのだと思います。

これからの時代を生きるために「自分で考えて、生き抜く力を身につけた人を育てたい」という情熱も感じました。

再生エネルギーやバイオマスといった、最先端の技術を駆使した事業に邁進するパワーの源は、人間味溢れる熱い思いだったというギャップにも、大いに魅力を感じたインタビューでした。

最後に、「失敗したらやり直せばいい、その連続。100点を求めずに、まずは30点でもやってみる。ほとんどの人が100点を目指して1歩も踏み出せない。」という言葉、身につまされました。皆さんはドキッとしませんか?

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