2023.06.28
太田地区の植栗の信号から榛名方面に登っていくと到着する地域”十二ヶ原”をご存知でしょうか。
十二ヶ原は、畜産を営む農家が多く榛名山麓の豊かな水源地でもあります。
今回は、養豚農家の一人である富澤養豚さんへ伺いました。
榛名山麓の水源で育てられた養豚の話を中心に、山遊びと称して一人でも真冬でも山にキャンプに入る富澤さんから見た山への魅力、写真家としての活動なども教えていただく機会となりました。
(富:富澤一也 イ:インタビュア)
イ:まずは、富澤養豚でのお仕事を伺わせていただけますか。
富:事業の規模は母豚が百頭ほどです。一頭の母豚は一回当たり10〜14頭を出産するのですが、年間二回の出産があるので一年で2000頭ほどを出荷する規模になります。
イ:年間2000頭ってすごいですね。豚の餌は何が入っているんですか。
富:主原料はとうもろこしですが、豚が大きくなっていく過程で三段階に分けて餌の中身も変わっていきます。ちなみに三ヶ月で200トンも使います。
イ:餌をあげるだけでも大変そうな量ですね。
富:餌のコストは高くて、全体の費用の6割くらいを餌が占めていたのですが、コロナが来てからは、相場が悪ければ赤字になることも…
売り場の値段は変わらないのに、原価は上がってしまう。だから、畜産農家さんも辞めている人が多いですよ。
イ:畜産農家を続けているだけでも僕らの知らない苦労があるんですね。
イ:ここ、十二ヶ原のお話を伺ってもよろしいですか。
十二ヶ原には富澤養豚と合わせて3軒の養豚農家がいて、その3軒で出荷されたオリジナルブランドがあるんですよね。
富:群馬県だと、上州麦豚が多いのですが、その中でも生産地が東吾妻のみのオリジナルブランドが「あがつま麦豚」として販売されています。
実は、品評会などに行っても「あがつま麦豚は違うね!」と言ってもらえることが多いんですよ。特に飲食店の方からは良く言ってもらえたりします。
イ:何が違うんでしょうか。
富:環境の違いもありますが、特にお水ですかね。
うちで使っている水は、上の大原地区と共同の水道組合が管理しています。ここら辺は、箱島湧水と同じ榛名山麓の水源で、言ってみれば山の水です。それを独自に使っているんです。
イ:家で使っている水もそうなんですか。
富:そうですよ。実は、コストの面でも全部が普通の水道だとしてもえらいことになります。
イ:確かに、農場で使う水の量は凄そうですね。
富:また、農場全体で言えることですが、結局は気候が大事です。豚は暑さに弱いんです。
いかに夏の時期に涼しい環境で育てるかというのが重要なんです。逆に寒さは大丈夫ですよ。脂肪があるので。
イ:僕も乳牛の牧場で働いた経験があるのでわかるのですが、豚も牛も夏が弱いイメージがあります。
富:そうなんですよ。夏場はグダ〜ってなっちゃうし、餌も食いが悪い。
子豚は逆に暖かい方がいいから、どっちが良いと言われれば難しいですが。
イ:標高はどれくらいなんですか?
富:ここの標高は634メートルでスカイツリーの高さと一緒なんですよ。
イ:それは覚えやすいっすね。その標高だと、町内でも高い方ですよね。
富:そう、だから冬だとマイナス10度以下もよくあるんですよね。結構寒いです。
イ:冬場の対策もあるんでしょうか。
富:ある程度育つと大丈夫ですが、子豚は寒さに弱いので、見てあげたりします。
豚ってめちゃくちゃストレスに弱い生き物なので、環境が変わると体調を崩すんですよ。
イ:季節や温度の変化に弱いってことですか。
富:そう、季節の変わり目とか。敏感だから。常に一定でいたい動物なんですよ。
イ:なんだか人間みたいですよね。
富:そう。だから、その環境を一定にしてあげるのが本当に大事。
これは飼育している上で全てに言えることだけど、今日やったことがすぐに結果が出るかというとそうではない。半年とか一年先なので。
イ:ずっと同じように管理してあげるってことですか。
富:そうです。同じ環境にしてあげた方が豚にとってもいい。何より育てる側も負担が少ないしね。
なので、同じことを継続してやるってことが一番重要なんです。
イ:当たり年とかはあるんですか。上手くいったなーとか。
富:そこを変えないようにするのがプロなんですよ。
イ:なるほど。今年はいいけど翌年はダメ。を作らないようにするんですね。
富:毎日同じことをやるってのは、毎日同じ品質を保つってことなんです。
富:いっとき、徹底的に綺麗にしてやろうと思って、徹底的にきれいにして消毒していた時期がありました。
しかし、人間の生活場所と一緒で、農場独自で持っているウィルスが違っています。なので、流行っている病気を全部叩くと別の病気が出てきたりします。
イ:では、完全に綺麗なのは逆に悪いということですか。
富:そう、どっちかをなくすと、どっちかが爆発するようなイメージです。
もちろん、外部からのウィルスが入ってこないようには徹底的にやりますけど、農場の中では常に同じくらいの衛生レベルが良い。ゼロにするくらいの勢いでやっていた時期に比べて、それを辞めた時期の方が調子が良くなりま
した。
イ:そうなんですね。綺麗な方が良いのかと思ってました。
富:やはりそう思いますよね。ウィルスも自然環境の一部ではあるし、どのように共存していくかが大事なんです。
イ:群馬で有名な老舗のパスタ屋シャンゴさんでも、あがつま麦豚を使用した商品があるんですよね。
富:シャンゴさんとのご縁は、ある大手ビール会社主催の展示会があり、ご当地である群馬県産の上州麦豚にも注目していただいた時でした。
そこで、シャンゴの幹部の方とお話しさせていただき「ぜひ、吾妻で生産している豚肉を使いたい」とオファーを受けたんです。
イ:おお、それはすごいですね!
富:当時の役員の方が原町の方だったらしく、後押ししてくれたんじゃないかなと思っています。
今でも看板メニューのパスタの上にとんかつが乗っているメニューがあるんですが、あれは「あがつま麦豚」なんですよね。
イ:全然知らなかったです!今度食べに行ってみます!
イ:町内の方から富澤さんに山での遊び方について、ワークショップをして欲しいという要望があったのですが、山での遊び方ってどういったものなのでしょうか。
富:ワークショップを通じてロープワークや焚火の起こし方、キャンプなどを通じて、自然の本質や自己発見を伝えることができればなと思っています。
僕ら自身も自然の一部だし、それを感じることが大切だなと思うんです。
特に、僕なんか。機械とかじゃない生き物を相手にしていて、その生死をみている仕事だからか、余計に思ってしまうんですよね。
自然の中での遊びって何がいいかというと。自分自身を認めることができることなんですよね。
例えば、人間の身の回りは意味があるものばかりじゃないですか。
目の前にあるテーブルも、ドアも窓も意味があってそこにある。でも、自然の中のものって、別に意味がないんですよね。そこにずっと生えている木に意味があるのか。って、特にないんです。
人間社会の中だけで生きていると、自分が生きているのは何の意味があるんだろうとかを追求し始めてしまう。
イ:確かに、自然を相手にする釣りとかキャンプとかって人の評価とかを全く気にしないですよね。
富:そう、そんな何も考えない時間が良いですよね。そっちの方が自分と向き合う時間にもなりますし。
イ:写真家として活動していると伺ったのですが、写真家を目指したきっかけやエピソードについても聞かせていただけますか。
富:5・6年前だったかな。キャンプをしながら動画や写真を撮っていたものを自分で編集してアップしていました。
そこで、たまたま見つけた動画をきっかけに師匠(メンター)に会ったんです。
師匠は、本業の傍ら写真を撮りながら何度も表彰されている方で、江ノ電にも作品が展示されているらしいです。
イ:すごいですね。その道では相当有名な方のはず。
富:当時の僕は写真で感動したことがなかったのですが、師匠の動画の中で、その方のエピソードと共に出てきた写真に心を動かされました。
そして、ちょうど同じくらいのタイミングで、なぜか俺の動画にその人からコメントがあったんです。
イ:それはすごいですね。そして、絶対に嬉しい…
富:師匠は榛名に縁があったらしく、そのままの流れで一緒にキャンプすることになったんです。
それから一緒にキャンプしながら写真を撮るようになりました。
色んなものを見て、同じように同じものを撮って、何が違うのかなって考えましたね。
そこから、本気で写真をやり始めたんです。
イ:どんな写真を多く撮られるんですか
富:自分の生活範囲の世界で、誰も見ていないようなものを撮りたいと思っています。
写真を通して学んだことは、目指しているものがあれば、全部真似をしても同じものにはならないってことでした。
ある時、ひたすら真似していたのに全く別のものが出来たんですよ。
同時に、師匠には「これからはライバルだから」って言われてすげー嬉しかった。
イ:それは嬉しいっすね。免許皆伝みたいな。
富:個性っていうのは人と違うことをするんじゃなくて、同じことをやってても滲み出てしまうものなんだなと教わった気がします。
イ:東吾妻町の好きなところはどこでしょうか。
富:子供を育てるには良いところですかね。やっぱり、吾妻で育って良かったって思っていますから。
なんだかんだ言って、手当ては色々あるし、地区のイベントに参加したり、祭りがあったりで、地域で育てるって雰囲気も良い。町の人も挨拶すれば挨拶返してくれるし。
イ:子供の数は少ないけど、その分大事にしてくれていますよね。
富:それに、幼少期に山で過ごした経験があることは人として健全じゃないかと思っています。山や自然は休日にいくレジャーじゃなくて、もっと身近にあってほしい。
イ:町の課題とか、問題点とか、こうなって欲しいなとかはありますか。
富:少子化とかって言うじゃないですか。子供一人いくらとかって、金の問題だけでもないと思うんですよ。
子供一人にお金がかかって大変だ。って大人が言っているのを見て、その子が育っても親になろうとも思わないですよ。
でも、子供の頃からおままごとしてたり、生活の中でいつかお父さん・お母さんになるんだって思っていれば、自然と子供の数も増えるんじゃないかなと思います。
イ:最後に一也さんの今後の展望があれば教えていただけたらと思います。
富:そうですね。農業を続けられれば。
イ:確かに、経営状況の厳しい中、この場で農業を続けること自体が町への貢献にもなりますよね。
富:規模を特別大きくしたいとかは考えていません。農業ってのは続けていくべきものだし。変わりなく続けて行けたらと思います。でも、子供に継いで欲しいとかはないんですよ。
俺も継ぐ気もなかったけど、何があるかはわからないよね。今では、豚の様子を見るのも、毎日の習慣ですよ。
イ:生活の一部になっているんですね。
富:そう。これが仕事って思ってやっているわけじゃないからね。
これからも続けながら美味しい豚肉を作っていければと思います。
イ:町から出ていってしまう方も多い中で、東吾妻町で育ち、東吾妻町でこれだけ楽しんでいる一也さんの存在はすごく大きいと思います。
ぜひ、ワークショップの機会もご一緒できればと思います。
養豚場の話や、山遊びや写真家の話など、今日は色々なお話をありがとうございました。
<情報>
富澤養豚株式会社
Insatagram : https://www.instagram.com/shafu.jin
<住所>〒377-0804 群馬県吾妻郡東吾妻町大字岩井2074番地40
<問い合わせ>0279-68-4307
(インタビュー・記事:富澤雄河)