2023.07.26
自身の表現欲求を追求し、独自の世界を創り上げる情熱的なクリエイターである、グラススタジオポルカの水出康治さん。
理系の道を進む中で、父親の画家という背景に触れ、アーティストへの憧れを抱き、苦悩の末、ガラス屋としての道を選び、独特のセンスと我慢強さを持ちながら、技術の習得に励んでいます。
東吾妻町で生まれ育ち、愛郷心を胸に、地元での暮らしやすい環境を大切にしつつ、自らの表現を通じて何かを町に残したいと願っています。価値を作り続ける姿勢と地道な努力で、独自のガラス作品を生み出すポルカさんの魅力に迫ります。
(水:水出康治 イ:インタビュアー)
イ:ポルカさんはオープンされて何年くらいなんでしょうか。
水:今、6年目くらいです。
イ:ガラスの仕事を始めたきっかけとかはありますか。
水:実は、学生時代は理系の路線を歩んでいたんだけど、画家だった親父の背中を見ていたので、表現者としての憧れが自分のどこかにあったんです。だから、漠然とサラリーマンになる道を進みながら「自分がやりたいのはこんなことじゃない」というのも心にあったんですよね。
イ:そうだったんですね。
水:いざ大学に入ったら、もやっとした気持ちが大きくなって…
それと同時期に、色んな人と会って話すうちに、意外と大したことがないんじゃないかって思うようになりました。
イ:そう映ったんですね。普通は逆のような気がします。
水:進もうと思っていたサラリーマンの路線っていうのは、層が厚くて「こりゃダメだ」って感じたけど、表現者としての道の方が「ちゃんと向き合って勝負すれば、いけるんじゃないか」って思い始めたんです。
このままじゃダメだなーという思いもあったので、年末に実家に帰った時に、親に話をしたんだけど、実はその時に、ガラス屋がやりたいってのもハッキリ伝えました。
イ:そんな時からガラス屋を目指していたんですね。
水:そうです。大学生で遊びながらですが。
水:絵描き・陶芸家・彫刻家・木工とか…いろいろ考えて、何がしたいっていうのはなかったけど、形にすることで、ステキなものを作れる自信がありました。
イ:「何でもよかった」って、逆にアーティストとして表現を目的にされている姿勢を感じます。
なぜガラスを選んだのでしょうか。
水:どういう道があるかを想像したり、活躍されている人を見たり聞いたり調べたりしているうちに、ガラスとか陶芸は、どちらかと言えば職人の方が多いことに気付きました。
イ:確かに。アートというよりは職人のイメージがあります。
水:ガラスを作っている人で「すごい」と思うひとは何人かいたんだけど「いいな」と思える人は、あんまり自分の中にはいなくて。色々と勉強して技術の習得に時間を要するということがわかりました。
イ:確かに、一人前になるまでに時間がかかりそうなイメージがあります。
水:センスがある人は、早く成果が出せる方に行って、我慢強い職人気質の人たちが残った状態なら、センスが良くて我慢強い人ってのが実はこの世の中にあんまりいないんじゃないかって思ったんですよね。
正直、センスだけだったら自信はないけど、我慢比べには自信があったんです。
その理屈がわかっていたから、センスを磨きながら、技術も習得していけば、今の人たちとは違ったものができるに違いないと思って覚悟を決めたのがスタートでした。
※ハルナグラス時代の作品
水:だけど。いざ就職しようとしても全部ダメでした。採用してくれるガラス屋がなかったんです。
イ:確かに、相手からしたら美術の系統の方の人を採用しますよね。
ポ:実は、その時に一度実家に帰ってきました。
ガラスをやりたい気持ちが残ってはいたけど「何も得ることもなく戻ってきてしまってすみません」って頭を下げたかな。
イ:あ、親父さんに謝ったんですね。
水:そこで、親父が「ミニトマトのサクがあるから、お前管理しろよ」って言ってくれ、収穫したものを直売所に持っていけばいくらか小遣いくらいにはなるって言ってくれて。
親父はあくまで手伝いっていう形でもなくて、丸々くれたんです。そこで「これで生きていける」って妙な実感も得れたんです。
イ:親父さんが応援してくれるのを感じる素敵な話ですね。
水:そんな生活を1ヶ月くらいしていた時に、こんなことを続けてはいけないと思って、ハルナグラスっていうガラス屋に「お給料はいらないので、勉強させてください」と頼みに行ったら「アルバイトでとってあげるよ。」って話になり、仕事をしながら、空いた時間で修行させてもらうことになり、なんとか目指していた方向への一歩が踏めました。
イ:そこからガラス屋としてスタートしたんですね。
水:榛名ガラスで五年くらいお世話になった時のことです。
日頃の練習の成果が出始めてきて、やっと板についてきたかなっていうタイミングで、藤岡でガラス屋を経営していた人が「閉店するから、そこに入らないか」という話をもらったんだけど、その時は正直ビビっちゃいました。
イ:何にビビったんですか。
水:「自分の技術」です。
方向性は掴んできてたけど、どのくらいの時間と訓練を経て形になるかはわかっていたから、あと3年くらいは欲しかったんです。
イ:水出さんにとってマイナスのところから、スタートするかもしれないってことですね。
水:すぐ結果を出せるほど、自分の能力がないこともわかっていたけど、そのチャンスってものは滅多にあるものじゃない。独立は、お金も技術も必要だけど、いつまでも待っててもダメかなと思って、ここで腹を括って引き受けることにしました。
いざ始めて見ると、1年目はどんどんお金が減って、親にも借金をしながら、コンビニでの夜勤のバイトを始めることでなんとか毎月のマイナス額をトントンにできるようになりました。
イ:本業の補填のためにバイトしていた時代があったんですね。
水:そうです。これでなんとか生きていけるし、その間は技術を向上できるから、ただひたすら腕を磨いて、売れるものができるように。と思ってやってましたね。
その後は、3年くらい続けて、やっと利益が出るようになってきたと思います。
そのまま、藤岡で6年ほどお店をやってたんですが、ここの開業資金である600万まで貯めることができました。
そのあとは、お金がある程度溜まって、自分への自信もついてきたから、貯まったお金を元に、次のステップに進もうっていう決断は早かったですよ。
イ:ガラス体験の魅力って何だと思いますか。
水:「ガラス体験」自体が、全国的にも体験としてのエンターテインメントとしてあるから、結局は目的地の場所にどれだけ近いかってレベルになると思います。
その上で俺が思うのは、素敵なところで素敵な体験をしてほしいってことです。
イ:なんで、そう思ったんですか。
水:だって洒落たところで作れた方が気持ちが良いじゃないですか。
イ:確かに。ポルカさんは建物自体もお洒落ですよね!
お客さんにとってガラス体験をどう感じて欲しいとかはありますか。
水:それはね。良いものが出来たっていうより、楽しい思い出を作ってもらいたいってのが一番です。
例えば「デートプラン」真鍮(しんちゅう)の指輪をトンカントンカンするような感じの思い出作りを、洒落た場所で楽しくやってもらえればいいなって思っています。
イ:じゃあ、良い作品っていうよりは、その時間を大事にするってことですか。
水:そうです。俺がフォローすることで誰がやっても良いものができたらいいですし、その空間を作ってあげるのが自分の義務だなって思って取り組んでいます。
自分の中の唯一の商売の部分でもあるので、厳しい目を持って一つの商品を作り上げるけど、体験はテクニック的な感じがあるかもしれません。
イ:そんな申し訳なさそうに言わなくていいですよ。
水:だからといって、嫌なわけじゃないんです。いろんな話を教えてもらえたりするし、俺も楽しいですから。
イ:東吾妻町の好きなところってどんなところですか。
水:東吾妻の良いところって言えば、「地元」ってことですかね。これも実は親父の受け売りなんですが。
親父は「それで十分じゃないか」と言ってたんです。
「みんながみんな、自分の生まれ育ったところを、生まれ育ったところだからって受け入れていれば、特別好きとかじゃなくて、兄弟とか家族みたいな当然のものとして受け入れていけば、それは愛郷心がある状態になるんじゃないか」って。
それに「結局はみんな自分のことを考えて生きているんだから、自分の過ごしやすい空間作りってのを、家族単位から、ご近所単位になって、町単位、県単位や国単位になっていくんだろうけど、その順序で大事なところから遠くへ広げていくべきで、いきなり日本をよくしようとか言っている奴は信用できない」と、良く言ってました。
近くの人を大事にしている人の方が、それが広まって、少し先のところまで行けるんじゃないかって。
俺も「あの人が言うんだから間違いないだろう」ってのが信用だと思うし、近いところから地道にやっていきたいと思ってます。
そのために自分の思っていることを言って、相手がどう思うかも評価だから、自分が思っていることを言わないと評価もしてもらえない。だから、なるべく自分の本心を人に伝えることによって、相手の本心も言いやすくなればいいなって思ってます。
イ:たしかに。僕もそう思いながら水出さんと話してます。
水:それを続けていくと、その人の評価になって広がっていくのが田舎だし、それが俺は好きかなって思うんです。
イ:最後に、今後の目標や展望とかはありますか。
水:一番は、仕事に関しては今までと変わらず、価値付けをするってことでなく、価値を作り続けたいですね。
一つ一つのクオリティを上げていきたいですし、維持していきたい。
どこかでピークっていうのは過ぎるんだろうけど、そのピークを自覚できるくらい物事に真摯に取り組みたいなって思います。
自分自身で厳しい目を持って、価値を見極められれば相対的な価値ってのもそうはずれないだろうっていう感触もあります。
イ:どうやって、この町に貢献したいとかはあるんですか。
水:結果的に、ちょっとでも刺激を受ける人がいるといいなって思ってます。
田舎で、尚且つ地元の人間が、地元で生まれ育った普通の人間が、能力の範囲内でやったことが評価されるって、やっぱり価値があることじゃないですか。
他人のせいにしないで、自分の思う価値で、何かを作り上げるって大事なことだし、ハウトゥ本とか、自伝とか、いっぱいありますが、その人なりのもので勝負している方が見てて面白い。
偶然と言えば偶然のように出来上がったものが好きなんです。
店舗情報
<情報>グラススタジオポルカ
<ホームページ> https://glasspolka.com
<Instagram> https://www.instagram.com/glass_studio_polka
<Facebook> https://www.facebook.com/people/Glass-studio-polka/100063708900548
<住所>〒377-0804 群馬県吾妻郡東吾妻町三島4608-3
<問い合わせ> 0279-26-9363
(インタビュアー:富澤雄河)