2023.08.30
地域と共に歩む大塚拓也さん。彼の農業は、美味しさだけでなく、持続可能な未来への情熱が息づいています。
今でこそ、有機栽培は普及していますが、大塚さんが有機栽培の道を歩み始めたのは25年前。当時は周囲からも奇異な存在とされていました。
また、「さくや姫」という名の町のブランド米がありますが、それは単なる美味しさだけではなく、地域の連帯と持続可能な農業への熱い信念が詰まっています。
それは、ひとつの町の輝きと、地域コミュニティの連帯の証。
拓也さんの努力と情熱が、豊かな未来を築くための一歩となることを願いながら、その軌跡を教えていただく機会となりました。
有機栽培の人参とズッキーニ
イ:大塚さんは昔から有機栽培をされているんですよね。
大:25年くらい前かな。俺もまだ、就職して20代の時。当時から、虫が全然ついてない畑ってのは、自分の中で違和感があってさ。虫がいるから安全、でも虫だらけの野菜を出すわけにもいかないしね。
でも、たまに手伝ってくれる人が、形が悪くて出せない野菜を、畑でバリバリ食べてて、「甘い甘い」って言ってるのをみると、他の野菜とは違うのかもね。
イ:どうしても多くの野菜を作れるわけではないと思うのですが、その場合は契約先が大事だと思うのですが、待っていて依頼されるものなのでしょうか。
大:有機野菜で出荷する箱に名前とか電話番号とか書いてあるから、それを見て連絡してくれる人が多いけど、契約がとれないと有機栽培は難しいよね。
イ:じゃあ、最初に契約栽培する人は特に大変ですよね。
大:そうだね。それに、最初というなら有機栽培の畑は農薬を3年間は使っちゃダメだからね。
イ:でも、時代的にはすごい合ってますよね。
大:そうだね。SNSとかでも無農薬の人を慣行栽培の人が「無理だ」って言っているのをたまに見かけるけど、ずっとやっている立場としては無理でもないなとは思うんだよね。
ただ、最初から有機栽培は大変なんだよね。初めての人は、知識とか、畑の条件とかも含めて無理なんじゃないかな。お金だって、普通に農家を始めるなら2000万くらいは必要だよ。
イ:大金ですね。
大:その上で、有機栽培なら、例えば都心部のように隣の畑までの境界が近いと、虫もいるから嫌われちゃうからね。
イ:畑の選び方からなんですね。
大:すぐ隣に他の畑があったらできないと思うよ。山奥なら山奥で水やりも大変だけど。
うちも町みたいに農業用水が来ているわけじゃないから、何とか井戸を掘って水やりをしている感じ。
イ:東吾妻町のブランド米である「さくや姫」って、拓也さんの親父さんが関わっているんですよね。
大:親父が会長をやっているんだけど、さくや姫を立ち上げる何年か前に、食味値コンクールにみんなで出したら良い点を取っちゃってさ。「実は自分達の米って美味しいんだな」って驚いたよ。
イ:狙ってたわけでもないんですね。
大:最初は「米作り研究会」っていう名前でさ。ここ何年かは、さらに栽培が上手くなって安定して食味値80の点数を採れるようになってきたかな。
でも、難しいんだよ。親父も会長なのに80点までいかないこともあるし。
イ:同じ場所で作ってても難しいんですか。
大:気候とかもあるけど、水を入れるタイミングとかもある。
イ:長年やってても難しいなら、少しの差でダメな年もありそうですね。聞けば聞くほどに「さくや姫」の魅力がもっと伝わればなと思います。
大:それは本当にお願いしたいよ。有機野菜よりやってほしいと思うくらい。ただ、極端には増やせないんだよね。
田んぼってのは、その場所が簡単に増やせるわけじゃないし、品質が下がっても次の年に買ってもらえるかはわからないわけじゃん。でも、金賞の人の米とかは30キロ6万円くらいにはなったかな。
イ:高くてびっくりします。それなら米農家だけで食っていけそうですね。
大:無理無理。美味しい米は量と比例しないんだよ。間隔を狭くしたりしたりすると、食味値は落ちる。欲をかくとダメなんだよ。
ここら辺は山間の中にあって、田んぼの面積は取りづらいから、一つの田んぼでせいぜい6俵とか。それだと、金額にしたら、せいぜい70万とかだし。
イ:70万も、すごいですが。
大:でも、他の田んぼは同じ値段で売れないからさ。それも難しいところ。「世界最高米」って知ってる?
イ:知らないです。
大:金賞の中でも、さらに5件の農家から、さらに5人の農家を選んで、その上でブレンドするんだけど。1キロ1万円だって。コロナになる前だけど、さくや姫からも2件出たんだよ。
イ:すごいですね。主な生産者は米どころで有名な新潟とかですか。
大:実は、新潟にはほとんどいない。毎回、金賞をとっているのは「雪ほたか」とかかな。
イ:群馬県の川場村の米ですよね。
大:「雪ほたか」の米は毎年エントリーしてるよ。
エントリーするのも、毎回サンプルを送って、チェックしてもらう工程があるから全国の中から30件くらいなのにすごいよね。
イ:そんな人たちが、会場に集まるんですね。
大:だから、賞をもらわなくても、金賞くらいの美味しいお米も多いんだよ。
イ:「さくや姫」も「雪ほたか」も、群馬県のお米って全国的にも美味しいんですね。
大:そうだよ。大量生産なら、もっと平地の広いところがいいけどさ。
群馬の中山間地域みたいな、山ばかりで標高も高めだと寒暖差があるじゃん。平地にはそれがない。
ここは榛名山麓の湧水の影響で綺麗な水も多いしね。
イ:大塚さんは、なぜ農家を継いだんですか。
大:俺は、10年くらいサラリーマンやってたんだよ。勤めながら、結婚して、高崎に住んでて、29歳の時に戻るのを決めたかな。当時は、工場に勤めていたんだけど、季節感がなかったのが辛くてさ。
その上で、親父が「暇だったらバイトに来いよ」って声をかけてくれてたんだけど、毎回毎回が違う仕事でさ、やっぱり変化が楽しかったかな。工場の変化のなさは俺にとってはダメで、この先も働けるかを考えた時に俺は耐えられないなと思ったんだ。
イ:生産者を実際に始めてキツかったこととか、やってて良かったこととかって何かあるんですか。
大:キツかったことなら、今まで、トラクターを運転したり、収穫したりとか、わかりやすいところをやらせてもらっていたけど、実際に始めたら、草退治とか土づくりとか全部ひっくるめて「農業」って知ったことかな。
一部分だけしか知らなくて、こういう地味な部分があってこそだと思えたのは、キツかったけど、大事な経験だった。休みがないのも、嫁さんとか子供に悪いなと思ったね。家族には迷惑かけたし。
イ:さくや姫は萩生地区の方が主な生産者の町のブランドですが、そういった中で地域での協力関係とかもあったりするのでしょうか。
大:うちじゃなくても地域を盛り上げたいって思っていた人はいたんだけど、それがなかったら「さくや姫」はなかったね。
「さくや姫」はグループでやっているんだけど、個人で一枚の田んぼを精米するまでの工程は大変でさ。それを、グループで出来るようになってから、楽になったと思うよ。
例えば、俺はもみすりの担当だったり、コンバインの人はずっと稲刈りを担当だったりで、動くんだよね。それをみんなで動かして、毎年30tくらいは作れているかな。
みんなの米が集まっているけど「今日はこの人のお米」っていうのがわかるようにしながら動いているから、その人の米はその人にいくようになってるんだよね。
イ:その辺は、大規模のライスセンターとかとは違った地域ならではの連携があるんですね。
大:人に頼まないといけないような、高齢の方には好評だよ。他にも、自分で管理はしたいけど、田植えと稲刈りだけはお願いしたい。って人もいるかな。
イ:作業の代行とか、連携ができていること自体が地域のためになっていますよね。
大:それがなければ、もっと休耕田も増えているからね。
「さくや姫」は、ふるさと納税の返礼品にも入っているし。ブランド自体も知られるようになってきたから貢献できているのかもしれないけど、実は「町として」というよりは「少しでも周りの人のために」って気持ちの方が大きいんだよ。
イ:東吾妻町の好きなとことかありますか。
大:高崎にしばらく住んでたんだけど、こっちの方がホッとするんだよね。心が落ち着くというか。子供なんかは、帰ってきた時は、すげーだらけているよ。山にも囲まれているから、見た目も含めて涼しいし。都心部の方が便利だけど、また住もうとは思わないかな。
イ:今後の目標や、将来の展望なども教えていただけますか。
大:東吾妻町だけの話じゃないけど、更に農家の人も少なくなっていくじゃん。それだと、これまで管理してきた畑や田んぼももったいないよね。
できるなら町としても、取り組む団体があればいいなって思う。休耕地を増やさないようにするための活動は、悔しいけど俺ら個人じゃ動けないんだ。
でも、推し進める団体があれば、そこに入って動きたい。休耕地が増えて、生産者が減っていく問題は、日本とかだと大きすぎて早く動けないと思うけど、町単位で動けたら、問題の解決に向けて動けるはず。
町民の人も、自分の土地だって持て余し気味なんだから、例えば従業員として雇えば、そこに給料とかも発生させられるし。団体で動くことで、常時仕事を用意できるようにもなればいいなって思うかな。
イ:自分の家だけじゃなくて、町の農業全体をイメージしているんですね。
大:単純に寂しいからね。毎日見ている土地の半分以上が草だらけになるんだよ。そこを毎日通って畑まで行くのを考えたら耐えられない。地域ぐるみで何とかしないと、地域自体もなくなってしまう。
イ:東吾妻町は、新規就農者への取り組みも始めたばかりですし、まだまだ伸び代はありそうです。
大:新規就農者の人に対しての補助はもっと多いといいよね。
近所の旧倉渕村は、まだ倉渕村だった時に「草の会」があってさ。新規で農家をやりたいって人を受け入れているんだけど、一定の期間を給料ありの研修を続けた人に畑を分けてあげながら、販売先も決まってて。それって、農家へ挑戦しやすいよね。
そういう取り組みが東吾妻町でも欲しいなって思う。
イ:元々のアクセスの良さがありますからね。旧倉渕村とは違う強みがありそうです。
大:「草の会」は、立ち上げた人がいたからできたけど、役場だけでなく、農家で誰か立ち上がらないと、実際には動けないからね。
そんな人を選定していって動ける形をとっていきたいと思うかな。東吾妻町は広いし、一気に全体で教えられるわけじゃないんだから。
イ:その地区ごとにいるのが理想ってことですよね。
大:土地ごとのリーダーを町でも決めていってさ、育てるくらいじゃないと。
例えば、お金が取れるようになるのは5年と考えて、無利子で初期投資の分は貸してあげてほしい。
イ:確かに、金銭面のバックアップは絶対に必要ですよね。
大:まだ教えられる人がいるうちに、そんな仕組みを作っていかないと、本当に間に合わなくなっちゃうよね。
そんな部分に、町としては手を付けていって欲しいと思う。
俺なんかが貢献していくっていうよりは、町としての形が出来上がっていれば、そこに来た人に教えられるかなって思うかな。
ただ、有機野菜についてしか教えられないからな。畑をどうするか、土をどうするか。限定される部分が多いけど。
イ:それはそれで、すごい貴重ですよ。
大:それは、俺だけじゃないよ。東吾妻町には、それぞれの生産物のプロがいるからね。そんな人たちが中心になっていければいいなと思う。使う道具だって、繋がりができれば、バックアップもたくさんできるだろうし。
それがこれから10年くらいの間にできたらいいなと思うことかな。
YouTubeチャンネル「記録人」よる「さくや姫」の動画紹介
https://www.youtube.com/watch?v=G3ulmZsPHTo
東吾妻町_ふるさと応援寄附金
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/contents/1222213759646/index.html
(インタビュアー:富澤雄河)