ロックなヒト

自然に触れることの大切さを伝えたい

今回インタビューさせて頂いたのは、地元密着の老舗和菓子屋「藤井屋政右衛門(ふじいやまさえもん)」の3代目店主、上原政則さん。上原さんはお店の伝統を大切にしつつも、柔軟な発想で新商品の開発や様々なコラボレーションを行っています

「東吾妻で育ったからこそ今の自分がある」と語る上原さんには

・洋菓子職人になった経緯
・ご自身の信念
・今自分が活躍できている理由
・東吾妻への思い
・仕事に対する思い
・人生で大切にしていること

など、コロナ渦でもお店を繁盛させてきた秘訣を語って頂きました。

ご先祖様からもらった店名

※上:上原さん イ:インタビュアー

イ「まずはお仕事についてお聞きしてもよろしいですか?」

上「私は東吾妻町の原町で3代目になるのですが、お菓子屋を営んでいます。父親と弟が和菓子を、私が妻に手伝ってもらいながら洋菓子を作っています。」

イ「お店自体はかなり長い歴史があるとお聞きしていますが。」

上「お店は祖父の代からなので、開業して70年ぐらいになると思います。」

イ「70年!すごいですね。」

上「店名は”藤井屋政右衛門(ふじいやまさえもん)”といいます。それと”政右衛門”という1番人気のお菓子があるのですが、その『政右衛門』というのがご先祖の名前でして、『政右衛門』から数えると私で18代になります。
お菓子も地元の岩櫃城・ハート形土偶・真田とか、町のネーミングを使わせていただいてます。まあ、地元密着のお店です。」

歳下からこき使われるのが嫌で猛特訓!

上原さん調理風景

イ「お仕事を引き継がれた経緯を聞いてもいいですか?」

上「大学生のとき東京に出て中国語を勉強しまして、その後就職活動をしたんですけど、なんかしっくりこなくて職に就かず家に帰ってきました。それから1年ほど家の手伝いをしていたのですが、父親から『お前は洋菓子の方が向いているから、洋菓子の修行に行ってこい‼』と言われ、新潟のお菓子屋さんに行かせていただきました。」

イ「よく修行に行くことを決心されましたね。」

上「1年間プラプラしているとヤバいかなあと思いまして(笑)あと当時付き合っていた今の妻の為にも『ちゃんとしなきゃ!』という思いがありました。」

イ「実際に行ってみてどうでしたか?」

上「あの時代は『見て覚えろ、窯に手を突っ込んで覚えろ』という職人気質の考え方があったので大変でした。毎日朝6時から夜10時ぐらいまで働いて、休みも月に2・3回ぐらいしかなかったですし。

職人の世界なので上下関係も厳しかったのですが、歳下の先輩から色々言われるのが悔しくて・・・1年間ぐらい仕事の後に自主練習して頑張って技術を習得し、3年目には若い子に指示を出す1番重要なポストにまで登りました。歳下の子にこき使われるのが嫌だったという思いが強かったんです。」

イ「悔しさをバネに頑張られたのですね。お菓子に触れること自体は楽しかったのですか?」

上「家にいた時はただ見ているだけで全くお菓子は作っていなかったのですが、実際やってみてどんどん成長していくのが実感できて、ハマったと言うか、面白さが分かりましたね。」

上原さんのケーキ

※上原さんから生み出されるケーキ

バカにされたシュークリームが売上3位に!

イ「自分なりの信念や大切にしていることなどはありますか?」

上「修行から帰った後、洋菓子の方は出しても売れない状態が1年ぐらい続いたことがありまして・・・そんな折、前橋の百貨店からオファーが来まして商品を出すことになったんです。」

イ「チャンスですね!」

上「で、商品を出すためにその百貨店に行ったんですけど、私が吾妻から来たと言うと駐車場係の人からすごくバカにされたんです。吾妻って言うと結構バカにされることが多くて、売り場の人からもそんな雰囲気を感じました。でもいざお菓子を売り出してみるとバカ売れして、70店舗ぐらいある中で売上3位になれたんです。」

イ「それはすごい!」

上「そうしたら皆、手のひらを返したようになりましたね。私の中には『うちの町をなめるなよ』みたいな信念があるのかもしれません。ちなみに、このとき”モチモチシュークリーム”というのを出したのですけど、その時代って硬い生地のシュークリームが流行っていたんですよ。でも私は逆転の発想というか、柔らかいモチモチした食感で作ってみたらそこから一気に広まりましたね。」

イ「先見の明があったんですね。」

上「お菓子作りとか何でもそうなんですけど、私は逆の発想をすることが多くて、流行の逆とかそういう思考が昔からありました。」

自然の中で遊ぶことで育てられた発想力

上「私はお菓子作り職人としての技術はそんなに無いんですよ。でも発想力・想像力は自由なので、新しい商品については群馬で1番最初に出すようにしています。全国では無理でも、群馬では1番に出すんです。生キャラメルとか焼きドーナッツとかはおそらく群馬で最初に出したと思っています。」

イ「これから流行りそうな物の情報を、どうやってキャッチされてきたのですか?」

上「雑誌などのメディアもそうですが、様々な業種の人との情報交換だとか、アンテナをちょっと広げるようにしています。

飲食業の方だけでなく、色々な作家・陶芸家・画家とも個人的に繋がりを作って会いに行っています。繋がりを大切にしてる・・・というか、面白いんですよね。皆さん個性的な人ばかりで刺激を受けますし、色々な発想のヒントになったりするので。」

イ「自然とそういう発想になっているのですか?」

上「やはり吾妻で育ったからではないかと思ってます。東吾妻出身で活躍されている芸術家や美術家も結構多いですしね。育った環境が大きいです。」

イ「なるほど、育った環境ですか。」

上「はい。吾妻は田舎で何もない。でも今私は45歳なんですけど、この歳になってなぜお菓子作りが出来ているのか?って言うと、やはり小さい頃に使っていた発想力・想像力がものすごく重要なのだと思っています。

基地を作ったり、魚を捕まえて食べたり、イカダを作って川下りしたりということを小さい頃からやってきたわけです。そうすると自分で考えたり、想像したり、発想したりする力が自然と身に付いているんです。今の子供達はみんなゲームをしていて、ゲームが悪いというわけではないんですけど、『自然と戯れる』『自然を感じる』というのを大事にしてほしいですね。せっかくこんないい環境があるので。」

イ「私も自然しかない場所で育ってきたのですごく共感します。」

お菓子の名前の名付け親

イ「東吾妻をもっと良い場所にするにはどうしたら良いと思いますか?」

上「真田とかハート形土偶とか全国的な知名度があるので、歴史という観点で見たら吾妻郡の中でも抜けていると思うのですよ。なのでもっとうまく活用できればと。本格的な歴史ではなくて、ちょっと崩した『かわいい』とか『かっこいい』とかが良いのではないでしょうか?お客さんも来やすいと思うので。」

イ「そういえば、ハート形土偶のお菓子を出された時、反応はどうだったんですか?」

上「良かったです!古代米などの十穀米を使ったお菓子で、”時空を超えたラブレター”というのですけど・・・」

イ「時空を超えたラブレター!その名前を考えたのは誰なんですか?」

上「私はよく1人で飲みに行くのですが、その飲み屋に面白い常連さんがいまして・・・その人だったら面白いキャッチフレーズを考えてもらえるかもと思い頼んでみたら、良いのが出てきて、そのまま使わせてもらいました(笑)」

イ「そういう人を見つけるのも上手なんですか?」

上「自分に足りないものとか、自分より優れている人は沢山いますよね。その人と仲良くなって、お互いWin-Winの関係を作るようにしています。」

藤井屋さんお菓子2

ただお客さんの笑顔が見たいだけ

イ「仕事で1番苦労されたことは何かありますか?」

上「”モチモチシュークリーム”をきっかけに、洋菓子の方はずっと右肩上がりに売れ続けまして、仕事としては順調です。コロナ禍でお店全体としては大変だったのですが、洋菓子の需要は逆に増えました。

でも毎年クリスマスは大変ですね・・・洋菓子職人としては1番のイベントなのですが、私の代わりがいないので、プレッシャーが大きいんです。体調管理もしないといけませんし。そういうのも含めて12月は1年の中で1番神経をつかうので、終わったら結構疲れてますね。」

イ「では逆にすごく楽しかった、うれしかったことはありますか?」

上「単純にお客さんから直接『美味しかった』とか『ありがとう』とか言われるのが1番うれしいですね。お菓子屋をやっていると、お客さんの反応が直に分かるので。私が新潟で修行していた時の親方が『商売というのは笑いを売る』と常に言っていましたけれども、それが私の中にも息づいています。」

イ「お客様の反応は何を見て分かるのですか?」

上「ショーケースの前だとお客さんが笑っているのが見えますし、うちのお客様はほとんど地元の方なので、『おいしかったよ』と直に言っていただけるので反応はすぐ分かります。やはりお客さんの笑顔が見られるから頑張れますね。」

しっかり仕事をして思いっきり遊ぶ‼

イ「お店やご自身について今後の展望を聞いてもいいですか?」

上「お店については、今は親の色が強いんですけど、いずれは自分の考えた店づくりをやっていきたいと考えています。『和』というイメージは残しつつ、地元の人も来れるちょっとおしゃれな雰囲気のお店に変えていければと。また、うちの店が有名になれば東吾妻町の知名度も上がるので、何かしら携わったり貢献できればいいなと思っています。」

イ「お店以外にも、ご自身でされている活動があるんですよね?」

上「私、仕事をする上でONとOFFを大切にしていまして『仕事をするときはしっかり仕事をする、遊ぶときは思いっきり遊ぶと』を今後も継続していこうと思っています。

それで、昔からキャンプが趣味なんですが、最近Youtubeで『やまかわ食堂』というチャンネルをピザ職人の後輩と始めました。今キャンプ系のYoutuberも多いですけど『食べ物作りのプロでキャンプ料理をする人』というのはなかなかいないので、そこに特化して。『キャンプをしながら群馬や吾妻など地元の食材を使って料理やお菓子を作る』というのをコンセプトにやっています。」

上原さん「やまかわ食堂」

「やまかわ食堂」YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC2IzklvPgrrvZSiUuajHpfA/featured

「やまかわ食堂」Instagram
https://www.instagram.com/yamakawa_shokudou/

イ「すごく楽しそう!投稿頻度が上がったら視聴者数もたくさん付きそうですね。」

上「ただ2人の時間がなかなか合わなくて、最近は2・3か月ほど開いてしまっているのですが(笑)でもできる時にやっていきたいと思っています。」

イ「今後の更新、期待しています。最後に伝えたいメッセージはありますか?」

上「今クリスマスケーキの予約を受け付けています。ケーキにはキャラクターを描くこともできますので、ご希望の方は仰ってください。」
※インタビュー(2021年10月)時点

上原さんのケーキ2
上原さんのケーキ3
 ※藤井屋政右衛門で大人気のクリスマスケーキ

編集後記

今回のインタビューを通じて、上原さんからは「自然と触れあうことの大切さ」を学ばせてもらいました。

近年、物事の変化のスピードは加速しています。

上原さんが仰られるような「自然と触れ合い、そこから様々なことを学ぶ」という考え方は、これからを生きていく上でますます必要になっていくのではないでしょうか。

それを既に体現している上原さんが、今後どんな新しいお菓子を生み出すのか?とても楽しみですね。東吾妻へお立ち寄りの際は是非「藤井屋政右衛門」へお越しください。

※個人的に「やまかわ食堂」の更新も楽しみです。

<情報>
◾️藤井屋政右衛門
https://www.itadaki-higashiagatsuma.com/%E8%97%A4%E4%BA%95%E5%B1%8B/

<住所> 〒377-0801吾妻郡東吾妻町原町5048
<営業時間> 9:30〜18:00
<定休日> 火曜日
<電話> 0279-68-5315
<駐車場> 10台(インタビュー・記事:岩下知史)

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MY ROCK TOWN 東吾妻