2024.08.09
すがや農園は、地域に根ざした農業とキッチンカー事業を通じて、祖先が手塩にかけて育てた田畑を守りつつ、地域の魅力を伝えていくという挑戦を始めました。
2023年にスタートしたキッチンカーは飲食にとどまらず、地域の農産物の魅力を広く伝え、農業の重要性を再認識させる役割も果たしています。
本記事では、すがや農園さんがどのようにしてこの挑戦を始め、どのような新たなビジョンを描いているのか、その背景と未来への思いを深掘りさせていただきました。
(す:すがや農園 イ:インタビュア)
イ:Instagramで何度か拝見させていただいておりましたが、屋号に”農園”と入っているということは、すがや農園さんは農家もやられているのでしょうか。
す:両親が、お米や野菜を自家用で作ってますが、出荷はしてない状態です。
家で食べる分を作っている分だけでしたが、周りの田んぼの休耕田が増えてきたことで「代わりに耕してほしい」という人たちの分も作って、出来たお米をお渡ししたりもしています。
す:昔は兼業農家で、お米はもちろん、フキやトマトや蒟蒻などを出荷していました。
現在は、祖父母の後を継いで、両親が畑を守っています。継ぐ人がいないのでキッチンカーをやりながら継げればと思い「農園」と名付けました。
す:「すがや農園」という屋号ですが。
3姉妹で私が長女なのですが、3人とも結婚で「すがや」ではなくなりました。
畑や農地を守りたいという思いがなんとなくあり、最後に私が籍を抜ける時、「両親がいなくなったら、この姓は消えちゃうんだな」っていうのが寂しいと思い決めました。
イ:農業を継ごうとと思って始められたのですね。
す:そうです。自身が、出産・育児と続く中で、会社員でずっと働くビジョンが描けなかったこともきっかけになりました。
イ:キッチンカーを始めたのはいつ頃でしょうか。
す:2023年の3月にお世話になっていた会社を退職し、4月から準備を始め、10月から販売を始めることができました。
イ:ロゴがすごく可愛いなと思ったのですが、自分で作られたのでしょうか。
す:実は、4歳の子供が描いた絵をもとに作ってもらいました。
子育てと両立するという目標を忘れないという意味が込められています。
イ:とても素敵なエピソードですね。
一目で覚えられる感じも含めて、良いロゴだなと思っていました。
す:「猫ちゃんのおにぎり屋さん」って言われてることもあります。
ロゴも覚えてもらえるので何よりです。
す:「農業」「観光振興」「子育て」の3つをポリシーとしてやっています。
元々、最初は農業をメインにやろうと考えていました。
うちのお米を大事にしたい。と思っていたので。
なので、県庁の農業関係のところへ行き「農業を始めるにはどうしたらいいか」と相談しに行きました。
そうしたら「農業を始めるのは土地取得が一番難しいので、土地があるなら両親を手伝うことから始めたら」と言われました。それは農地を守ることに繋がるので、そうすることにしました。
実際、始めてみたら、キッチンカー自体と子育てがすごく忙しくて、なかなか農業をやる時間が作れてません。見込みが甘すぎなたと思っています。
でも、農地が消えるってすごく怖いことだと思っていて、高齢化でただでさえ消えているので、なんとか土地を継ごうと、キッチンカーで周りの人から農産物を買いながら、地場産の食材を使って魅力を伝えていきたいと思っています。
あと「観光振興」として、キッチンカーの移動できる強みを活かして、
東吾妻町に人が来てくれるようにできたらなって思っています。
上信道が完成したら観光客が草津までノンストップで行ってしまう可能性があります。
なので、これからは前橋や高崎などの県内近郊の方を呼び込むことがより大切になってくると考えています。
そこで、キッチンカーで県内のイベントに出店して、東吾妻町を知ってもらいたいです。
イ:確かに、それはキッチンカーじゃないと出来ないことですよね。
す:東吾妻町のことは意識していないけど「岩井親水公園は知ってる」とか「吾妻峡は知っている」とかって人もいると思うので、改めて地域としての魅力を認知してもらうことで、吾妻地域のファンを増やしていけたらいいなと思います。
イ:最初から一人で考えて進めていったのでしょうか。
す:前橋出身の夫と結婚した時に「お米がすごい美味しい」とか言われたのがきっかけでした。
思い返せば、私は幼い頃から食べているからか「お米が美味しい」という感覚を知りませんでした。
それから、お米だけではなくて「田舎ならではの野菜の美味しさ」みたいなのも再確認して行きました。野菜自体が美味しいから、誰がどんな料理作ってもすごい美味しいのもすごいなと感じました。
キッチンカーでは、そんな自分にとっての「普通」を、都心部の人に届けることができたらなと思っています。
吾妻って、農業だけでなく、観光でも草津・伊香保・四万などに比べるとどうしてもメインで来るような観光地が少ないし、知られていない。
それを、キッチンカーで移動できる強みを生かして、いろんな場所で営業して魅力を伝えられたらなと思っています。
SNSで発信することでも、町内の色んな地域や観光場所の魅力を伝えられたらなと試行錯誤しています。
SNSは苦手ですが、文章を書くのは好きなので、今では楽しくやってますね。
イ:発信される上で大事にしてることは何でしょうか。
す:私の大事にしてる3つの柱は損なわないようにといつも思っています。
あと、地元の人の協力があって今があるようなものなので、地元のお店のイベント等に呼んでいただくことも多いですが、イベントに出してもらうだけじゃなくて、呼んでくださる側の魅力も一緒に発信するようにしています。
イ:事業を始めて嬉しかったことや大変だったことなどがあれば教えていただきたいです。
す:塩むすびが人気で「米がうまい!」と思っていただけたのが一番嬉しかったですね。
でも、おにぎりは、日持ちをしないので、出来るだけ仕込みに時間をかけないことや、調理を短縮するのが大変です。
元々、飲食業の経験がなかったので、仕入れも、調理も、色々わからないことだらけでしたが、商工会の方にお手伝いしてもらって、専門家の方に仕込みが効率的なメニューの開発を手伝っていただきました。そのおかげでコツを掴むことができ、メニューも増やせました。
土日にお客さんが集まる仕事なので、子育てとの両立は常に意識しています。土日に出店する際は夫に子どもを見てもらっています。毎週だと夫が休めないので工夫しないといけないところです。
イ:やっぱりこの町が好きだったりするんでしょうか。
す:そうですね。正直、いろいろな感情はあるんですが、子供の環境とかで考えたら、良いなと思う部分が沢山あります。
ただ、自分が幼い時は、本がすごく好きだったので「欲しい本が置いてある本屋さんがない」と言う悩みがありました。美術とかも好きでしたが、なかなか関係する場所もなかったですし、そういう文化的なものが摂取できなかった。子ども時代はたくさん葛藤がありました。
イ:確かに、どうしてもそうなってしまいますよね。
す:でも、今は文化的なものもたくさん入ってきたし、ネットもあるのでいいですよね。あと街に住んでて、東吾妻に戻ってきた時のちょっとした時間に「あぁ、吾妻の時間だな」と感じることがあるんですよね。夫と一緒に_”吾妻時間”って呼んでるんですけど。
都会に限らずかもしれませんが、夕方も家の中に入っちゃうと、寝るまでの時間がすぐにきてしまう感覚があって。慌ただしく家に帰ると家事が終わったらすぐに寝る。みたいな感覚があります。
でも、実家である東吾妻町に来ると、夕方に何をするでもなく庭にいる。と言う何でもない時間がとてもいいなと思うようになりました。
そういう時間が取れると、子供と一緒にいる時間も気持ちに余裕が生まれますし、自然と自然体験が一緒にあるような感覚で、すごい大事だなと思います。
夜の時間、外に出た時の星の綺麗さ一つとっても、やっぱり東吾妻の方が全然綺麗だし、そうやって自然に感情を揺さぶられた経験はすごい大きかったなって思うんです。
当たり前の自然に囲まれた豊かさの中で、空気や水も美味しいし、野菜とかも美味しい。そういうところはかけがいないなって感じるんですよね。
【 地場産おにぎり すがや農園 】
<住所> 群馬県 吾妻郡東吾妻町
<Instagram> https://www.instagram.com/sugaya.noen/