2021.09.13
今回インタビューをさせて頂いたのは、国内外で活躍されている彫刻家の「西島雄志」さん。
西島さんは2011年より「中之条ビエンナーレ」に参加。今年4月には東吾妻に移住され、ご自宅をギャラリーとしても解放されています。
そんな西島さんの作品は「銅線を巻いた小さなパーツを組み合わせて作る」という、完全オリジナルの手法を用いて作られます。
今でこそ「これは西島さんの作品だ!」とパッと見て分かるほどに個性を確立されていますが、そんな手法が生まれたのには「ある特別な理由」があったんです・・・
今回はそんなオリジナルの手法を生み出した「あるエピソード」をお聞きすることができました。
そこには
・地方移住を成功させる秘訣
・兼業アーティストとしての苦労
・限られた環境でこそ培われた経験
・モチベーションが下がった時の対処法
・芸術を気軽に楽しむコツ
など、彫刻家として自分を表現し続ける西島さんならでは知恵が詰め込まれていました。これは多くの人にとって「人生を楽しくするヒント」になるはずです。
それではどうぞ。
※西:西島さん、イ:インタビュアー
イ「そもそもなぜ、東吾妻に住むことになったんですか?」
西「これまでは東京で、芸大に入りたい学生向けの予備校で講師をしながら活動してたんですが、その仕事を3月で退職して制作に専念するため東吾妻に引っ越してきました。」
イ「東京で活動を続けようと思わなかったんですか?」
西「私は2011年からビエンナーレに参加していて、この地域に徐々に知り合いが増えていました。だから住むならここが良いなと・・・そうしたら、この物件の情報がたまたまSNSで目に止まってすぐに決めました。」
イ「住んでみて感じたことはなんですか?」
西「住みやすいし、刺激を受けてます。家の反対側には吾妻川が流れていて、景色が綺麗なんですよ。そこには色んな生き物がいて、都会とは時間の流れが全然違うんです。裏でキジが鳴いていた事には感動しました(笑)」
イ「これぞ田舎ですね。制作環境としてはいかがですか?」
西「とにかく自分のペースで動けるのがすごく良い。あと個人でお店を持っている人が、ご近所に何人かいらっしゃるんです。そんな方々と一緒になって行動することで、良い刺激をもらっていますね。」
イ「東京の時とは全然違いますか?」
西「東京より個人の動きが分かりやすいんです。ネットワークがすごい勢いで広がっていくのが楽しいですね!」
イ「中之条ビエンナーレに参加されたきっかけは?」
西「昔は銀座で個展を開いたりしていましたが、狭い範囲で活動が循環していて『なんか違うな・・・』と思っていたんです。そんな時にビエンナーレのチラシを見つけました。それを見てピンと来たのでエントリーしたんです。」
イ「ビエンナーレで得たものはありましたか?」
西「まず、見に来てくれるお客さんの反応が面白かったんですよ。芸術って敷居が高く感じますよね。東京では一般の方は中々ギャラリーに入りづらいという雰囲気があります。でもこっちのお客さんは『何かやってるの?』みたいな感じで肩の力が抜けていて(笑)自然体のままで作品を見てくれるんです。」
イ「場所を変えるだけで、そこまで違うんですね?」
西「年齢層も幅広く、ご年配の方も来てくださいます。中には作品を怖がったり、気持ち悪がったりする方もいますよ(笑)東京だとなかなか見られない反応なんですが、よく考えたらそれが普通ですよね。そんな人に見て欲しかったのですごく嬉しかったですね。」
イ「本当に見にきて欲しいお客さんが来てくれているんですね。」
西「ちなみに作家同士の繋がりも広がりました。東京ではイベントに参加しても、他の作家さんと会えるのは作品搬入の時だけだったりします。全然知らない人ともコミュニケーションを取るのは楽しいですね。」
※西島さんの作品が「中之条ビエンナーレ」のポスターに採用されています。
コロナ渦における開催状況は本部へ要確認。
イ「芸術の道に進んだきっかけは?」
西「小さい頃から何かを作るのが好きで、美術の好きな兄の影響もあったと思います。学生の頃に好きなことをして生きたい!という思いから美大に入る事にしました。で、当時横浜でロダンの『考える人』を見たんですね。」
イ「考える人なら僕も分かります!」
西「それを見た時に、考える人の背中の筋肉がね、動いたんですよ・・・そう見えたんですね。それから作品の持つエネルギーみたいなものに心を惹かれてしまったんです。」
イ「そんな不思議な事があるんですね・・・」
西「他にも学生時代にお世話になった先生の遺作展を見る機会があって。その時は異様なエネルギーに圧倒されてしまい、しばらく展示室に入れなかったんです・・・彫刻が空間にあるだけで、ここまで部屋そのものを変えることができるんだと実感しました。」
イ「芸術の道って厳しいイメージですが、進路に迷いは無かったんですか?」
西「あまり無かったですね。昔から好きなことをやって生きたいと思ってましたし、社会と繋がりたいと思ってました。」
イ「社会との繋がり、ですか?」
西「芸術って敷居が高いと思われがちなんですが、野菜や果物を作るのと一緒なんです。農家さんが野菜を作って社会と繋がるように、芸術家は作品を通して社会と繋がっているんです。」
イ「なるほど。好きなことで生きる、という感覚はもとからあったんですか?」
西「昔からありましたが、そう決めたのはこの数年です。仕事ってやらされると責任が持てないじゃないですか?だからこそ好きであることは大切です。今が52歳なので、限られた時間で責任を持って活動していきたいんです。」
イ「西島さんの作品は特徴的ですよね?銅線を巻いたパーツから作るんですか??」
西「こうやって、銅線をラジオペンチを使って両端から巻いていくんですよ。」
参考:西島さんのYouTubeより
西「これを日常で大量に作るんですが・・・実はこの制作手法に辿り着いたのは理由があるんです。」
イ「それはどんな?」
西「『何かしながらでも出来る』ってことです。昔は仕事もありましたし、アトリエにいる時だけが制作となると時間がなくてストレスが溜まってしまって・・・だから、リビングにいる時間などの日常生活を制作にできないか?と考えて生み出した方法なんですよ。」
イ「すごい、限られた環境で生み出された手法というわけですね!」
西「この手法を使って、いつでも制作ができることが自分の助けになりました。私は学生時代に結婚したので、アーティスト活動に専念できる環境ではありませんでした。仕事が常にあって、合間の時間に制作することが当たり前だったんです。」
イ「仕事をしっかりこなして、地に足をつけながら彫刻もされていたんですね。」
西「当然周りにはアートだけやってる人もいました。そんな中で『兼業アーティストはどうなんだ?』と疑問に思うこともありましたね。でも色々試行錯誤したからこのスタイルにたどり着きましたし、おかげでお客さんには作品を見れば「西島さんの作品だ!」と分かってもらえるようになりました。」
イ「今って『好きなこと』に目を向けすぎて、肝心なことを見失っている人も多いと思います。そんな人たちに是非、聞いてもらいたいエピソードですね。」
西「失敗も沢山しましたけどね。」
イ「これまでどんな失敗をされましたか?」
西「ほぼ失敗だらけとも言えますね(笑)生活のために、タクシーの運転手をやったこともありますし、遠回りは沢山しています。でも失敗を失敗とは捉えないようにしてます。」
イ「でも普通そういう考え方をするのは難しいですよね?」
西「自分が弱いのを分かっているので、意識を良い方向へ持っていくと常に考えています。自分が好んでその道を選んでいるはずですから。」
イ「モチベーションが下がった時はどうしますか?」
西「あまり無理をしないことです。無理をしてテンション上げると、一気に下がるじゃないですか。ちょっとマイナスになっても『今はそういうタイミング』だと考えていますね。」
イ「興味深いですね・・・予備校の先生時代は何を大事にしていましたか?」
西「芸術家って精神的な浮き沈みが激しいんです。だから『まずは自分の力を信じよう!』と生徒に伝えてました。自分を信じて、自分の弱いところと向き合わないと、芸大への道は勝ち取れないんです。」
イ「描き方やテクニックばかり教えるわけでは無いんですね。」
西「むしろ描き方は教えません。生徒から『どうやって描くのか?』と質問されても答えませんでした。」
イ「そんな時、生徒さんはどんな反応されるんですか?」
西「この人に聞いても無駄だな・・・と思うんでしょうね(笑)でも自分と向き合った子だけが成果を出せるんです。だから、そんな子にこそ早く気づいてくれたら良いなと思ってました。」
イ「では、アーティストとして1番大切にしていることは何ですか?」
西「彫刻家として『続けていくこと』です。続けると世界は広がっていきます。」
イ「継続こそ力、ですね!」
西「私も大学の時に先生に言われた言葉ですが、当時は漠然と聞いていました・・・でも経験を重ねて、とにかく続けていくことが大切だと分かりました。どんな時であっても、まずは手を動かすことですね。」
イ「では、今後の活動の展望についてお聞かせください。」
西「今度11月に、東京と神奈川からアーティストを呼んで展示会を開催します。こういった作家同士や、お客さんとのコミュニケーションの中から新しいものが生まれてくるんですね。今すごい勢いで人脈ができて非常に面白いんです。」
イ「それは、すごいですね!」
西「吾妻はアートの意識が広がっている地域です。私自身、色々な人と関わるうちにふれあいが大事だなと思うようになりました。たわいもない話で盛り上がるだけでも、良いアイデアに繋がります。今後もそういう場所を作っていきたいですね。」
イ「ちなみに僕みたいな美術に疎い人でも、気軽に美術を見るコツはありますか?」
西「最初は『好き!嫌い!』で良いと思います。本格的に見ようと思うと勉強が必要ですから・・・自分が『綺麗!とか面白い!』と思えるものに目を向けてください。その上で何か1つ美術品を所有することをオススメします。」
イ「僕も家に美術品を飾りたいと思ってました。」
西「数千円から買える作品は沢山あります。飲食に使ったらそれで終わりですが、美術品は長い時間楽しめますから。気軽に楽しんでください。」
今回の西島さんのインタビューを通じて、個人的に「自分と向き合う姿勢」を学んだような気がします。
「好きなことに責任をもって取り組む」
その姿勢は芸術家という険しい道を歩んできた、西島さんだからこその信念なのかもしれません。そこには現代の人々にとっての「生きるヒント」が沢山あるように思います。
今後、東吾妻から発信される西島さんの作品が楽しみですね。
「気軽に、楽しく芸術に触れてみたい!」と思ったら是非、西島さんの運営するギャラリー「newroll」に足を運んでみてください。
※企画展は2021年11月3日より、西島さんのギャラリー「newroll」にて開催。
<各種情報>
ホームページ:http://yuji-nishijima.com/
ギャラリー:http://gallery-newroll.com/
Facebook:https://www.facebook.com/YujiNishijimaArtWorks
Instagram:https://www.instagram.com/nishijimayuji/
Twitter:https://twitter.com/yuji_nishijima
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCRZMta1rH3m-HbSBn-cflaA?view_as=subscriber
<住所>
〒377-0303 群馬県吾妻郡東吾妻町新巻689-1
※訪問の際は事前アポイントが必要です。
◾️西島 雄志 ニシジマユウジ
人の存在やその気配に興味がある。
空間に満たされたものを感じ取り、形を与えてみる。
与えられた形から、空間を再構成する。
光を通して視覚から感じとる形により、空間を一定に保ちたい。
「存在」ということを意識したときに、物質そのものよりもその周辺に感じる「気配」のほうがリアルに感じる。
その「気配」を彫刻として表現するとき、どこまで形にするのか、どこまで形をなくすのか、
そのせめぎ合いの中で形も意識も揺れ動く。
そしてその過程を経て確実にカタチを存在させていく。
空間の中で断片が浮遊し、光を得て浮き上がるカタチは、正に「気配」として「存在」し始める。